ぼちぼち書きましょう。

気づけばFEエンゲージのことしか書いてない。

スタルークくんの「土下座」のこと

 

FEエンゲージのシナリオや演出の評価にあたって何かと取沙汰されがちな「スタルークの土下座」について考えてみようと思う。

登場シーンのジャンピング土下座から始まってスタルークに対して「何かというとすぐ土下座しようとする卑屈なやつ」という印象を抱いていたり「だから苦手、なんか不快」みたいな評価を下していたりする人は少なくないと思う。

……というか、エンゲージのリリース以来、そんな風に語られているのを何度も見てきた。正直、ろくに遊んでいない人がジャンピング土下座のシーンだけ見てばかにしてるのなんかは心底どうでもいいんだけど、しっかり遊んだと思われるプレイヤーからも「スタルークのあれは本当に無理」みたいな声が上がってるのをたびたび見かけて、うう、そうかあ……と、スタルーク推しの私はちょっとさみしく思ったりしてた。

 

スタルークくんが卑屈な性格で、何かにつけ全方位に向けて「すみません」「ごめんなさい」と謝りまくってるのは事実だ。登場シーンの派手な土下座や、その後もたびたび出てくる「土下座」のワードはスタルークの卑屈さをプレイヤーに印象付ける意味合いもたしかに持ってるのだろうとは思う。

でもスタルークの土下座の本質はたぶん、そこではない。あれは彼の卑屈さの表れとして描かれているものではないと私は思ってる。

では何かというと、あれはおそらくスタルークの「神竜への信仰心」の象徴だ。

 

もしあなたが「スタルークは何かというとすぐ土下座ばかりしようとするやつ」だと感じているとしたら、そう感じるのはきっと「あなたが神竜様だから」だ。


スタルークは支援会話で、いろんな相手に向かって「ごめんなさい」してる。

オルテンシアやフォガートから自身の態度について指摘されて謝り、アイビーにはブロディアのイルシオン侵攻について個人として「ごめんなさい」を口走り、ブシュロンには時間を割いてもらったのに自信につなげられなかったことを謝ってる。

セアダスとの支援会話では、キャラバン生活に対する自分の考えの浅はかさに気づいてその場ですぐに詫びた後、後日改めて繰り返し謝罪するほど心から反省している様子が描かれていたりもする。

仲間たちとの支援会話以外でも、紋章士たちに対しては「僕と組むことになってすみません」的なことをいろんな相手に言っているし(エンゲージするときの独自セリフも「僕なんかと、ごめんなさーい!!」だよね)、さらには戦闘中、自分が倒した相手に対してさえも「すみません」「なんとお詫びしたらいいか…」なんて言ってる。

もしスタルークの土下座が、彼の卑屈な性格に由来する行動であるなら、もっといろんな人に対して土下座しようとする様子が描かれてもおかしくないんだよね。

 

だけど、実際にスタルークが土下座してみせたり、「土下座してお詫びを」みたいな言葉を言うのは、神竜様に対してだけだ。ほかの誰に対しても謝罪のために土下座する素振りなど見せない。……いや嘘、オオカミにも土下座してるけど、あれは神竜様を守りたい一心から出た行動だったし、神竜様と二人でいたときの出来事だ。


そう。
スタルークの土下座は、神竜様との関係性の中にしか出てこない。

そしてそれは謝罪のためとは限らず、懇願だったり感謝の気持ちを伝えるためにだったりもする。

国境で賊と誤認して神竜様に向けて矢を放ったことを謝罪するための土下座。
(のちに遭遇戦でグランスール大橋に行くたび、そのときのことを謝罪して「もう一度土下座を…」と言う)

突然現れたオオカミから神竜様を守るべく、オオカミに向かって「帰ってください」と懇願の土下座。

そのときの「命の価値で言えば僕より神竜様のほうが上」という言葉に物申そうとした神竜様から謝罪すべき雰囲気を感じ取って土下座の準備。

後日、オオカミと仲良くなれたことについて「神竜様のおかげです」と感謝の土下座をしようとして止められる。

さらにスタルークをパートナーに選んだ場合には、プロポーズにあたって土下座しかけて「平伏してお願いすることじゃない…」と思い直す様子が支援💍で描かれるし、パートナーエンディングの後日談は「何か失敗すると派手な土下座をしたという」と締めくくられる。



ロディア王国は神竜信仰の国、すなわち神竜の加護を受けた国だ。
そんな国の王族であるスタルークも当然、神竜に対する信仰心厚く育ってきたと考えられる。

ディアマンドは邪竜との戦が始まる以前にも神竜様が眠るソラネルを訪れていたことが拠点入りした直後の会話でわかる。

おそらくスタルークも兄同様にソラネルを訪れ、目覚める前の神竜様の姿を見たことがあっただろうと想像できる。

7章では、指輪を奪うべく侵攻してきた敵オルテンシアに対して「邪竜を復活させた悪しき国の者が…神竜様に近づく資格なんてありません!」と言いきっている。

直前に出会ったばかりの神竜様がどんな人物なのかまだよくわかっていないであろうときでも、神竜であるというだけで守るべき存在と認めているし、神竜と敵対する邪竜は「悪」であると考えていることがわかる。

もちろん、共に過ごす時間が経つにつれ「神竜だから」という理由によらずリュールを大切に思うようになっていくのは、ほかの神竜軍の皆と同様にスタルークもそうであることが窺える。だけどそれとは別に、スタルークにとって神竜様は「神竜である」という理由だけで最初からほかの何者と比べても圧倒的に別格で、ひれ伏すべき存在なのだ。

スタルークの土下座は、そんな意識の表れとしての行動だと思う。

神竜様のパートナーになった場合にもたぶん、個人としての想いとは別に、信仰の対象としてひれ伏すべき圧倒的な存在だという認識はずっと抱き続けてて、あの後日談なのかなと思ってる。

 

スタルークくんって人は、自分という人間に価値があると思えずにいるんだけど、ブロディア王子である自身の立場の重みについてはちゃんと理解してる。オオカミに向かって土下座しながら「死んだらいろいろまずいので」って言うのとか、セリーヌに「(身を挺してもかまわないという考えについて)スタルーク王子には、理解できない考えではないでしょう?」と問われ肯定した後に「誰にも内緒にしておいてください」って返すのとかね(どちらもとても好きな台詞だ)。

からしょっちゅう自虐的な言葉を口にしていたとしても、誰彼問わずむやみに土下座して見せるようなことはしない。そんなことをしたらまずいってこと、たぶんわかってる。

それでも、神竜様に対してだけは、何度でも土下座してかまわないと思ってる。謝りたいときにも、お願いしたいときにも、感謝しているときにも。心からの気持ちを伝えたいときにはいつでも。むしろ積極的にひれ伏して忠誠心を示したいまである、たぶん。

神竜様に「土下座はもういいですよ」と言われて残念そうな顔を見せて、「得意技を封じられた可哀想な顔をするのはやめてください」なんて言われてる。でもそれは実はスタルークが神竜様だけに見せる得意技なんだよ。


そんな風に考えたら、スタルークの土下座は別に卑屈さの表れではないし、そこまで見るに堪えないようなものでもないと思うんだ。むしろスタルークの純粋さとか神竜様とスタルークの間にあるなにかを象徴するものかなって思ってる。


「いや、そもそもジャンピング土下座ってなんだよ、あの悪ノリっぽい演出が無理だ」みたいな意見もあるとは思う。思うけど。

 

ジャンプして一気に距離を詰めたり距離を取ったりするのは、それこそスタルークの戦闘時の「得意技」だったりするんだよね。

 

スタルークの戦闘中のモーションにはそういう動きがとても多い。めちゃめちゃピョンピョン跳びまわってる。

 

そんな特徴的な動きなんかもスタルークらしさの一つとして登場シーンに取り入れる演出意図があったのかもしれないな、なんて思ったりする。あの場面では直前まで臨戦態勢に入ってたわけで、その流れで戦闘中に見せるような動きを繰り出してくるのは割と自然な気もするし。

 

以上、スタルークくんの土下座について思うことをつらつらと書いてみた。

実のところ私も以前は「ジャンピング土下座のことは忘れてくれ」ぐらいに思ってたし、邪竜の章のスタルークを初めて見たときには「むしろこっちのスタルークに土下座させたいな?」とか思ったし、ようするにスタルークの土下座については、なんていうかスタルークの卑屈さを見せるための誇張的なパフォーマンスぐらいに捉えてた。

でも「あ、そっか、土下座って神竜様との間のキーワードなんだな」と気づいてからは、優しい目で見られるようになった。

だから同じように「スタルーク好きだけど、土下座はちょっとなー」と思ってる人が、「土下座も悪くないかも?」ってちょっとでも思える手助けになればうれしいなと思って書いたよ。最後まで読んでくださってありがとうございました。