20代の頃、原宿の竹下通りにあった美容室に通っていました。竹下通りの真ん中あたりにあった小さなサロンで、その後、竹下口の目の前のビルに移転した有名店でした。当時のCUTiEとかZipper系の聖地みたいだったとこ。
そのお店に初めて行ったときからずっと担当してもらっていた男性の美容師さんがいます。そこそこ有名なスタイリストさんなのですが、お名前書いていいかわからないしご本人に見つかったら照れくさいので、ここではAさんと呼ばせていただきます。わかる人が読んだら誰のことかすぐわかっちゃいそうですけど。
Aさんはたしか私と年齢だか学年だかが同じで、初めて会ったときはお互い20代でした。いつもかわいい髪色と流行りを取り入れつつ希望に合わせた髪型にしてくれる頼りになるスタイリストさん。
人懐っこい笑顔で少年っぽい雰囲気の方なんですけど、めちゃめちゃプロ意識が高くて、話しているといつも新しい技術や知識を学び続けているということが伝わってきます。もちろん技術も高くて、本当に安心してリラックスしておまかせできる方。
とても頼りにしていたので、Aさんが最初に知り合ったサロンを辞めて別のサロンへ移られるとき、私もAさんの新たなお勤め先のサロンへと通うサロンを移しました。そこからまた別のお店に変わったときも、やっぱりついていきました。
どれも表参道あたりのサロンでしたが、最初の原宿キッズ系のとこから洗練モダン系のとこ、裏原カフェ系のとこみたいな感じで、たぶん10数年、ずーっとAさんにお世話になっていました。
・・・なのですが、10年ぐらい前から私、Aさんのところに通うのをパタッとやめちゃってたんです。特に何かきっかけがあったというわけではなく、私自身の環境や考え方が変わって、なんとなーく「もういいかな」と思うようになって。
アラサーぐらいまでは表参道のヘアサロン、六本木のまつげサロン、白金台のエステとかとか、定期的に通って美容にかなりお金かけてたけど、年を重ねるうちにだんだん「いや、そこまでがんばらなくてもよくない?」みたく思えてきたというか。
当時は恵比寿に住んでたんですが、恵比寿にもサロンはいっぱいあるし、もう近所でいいかなって思って、チェーン系のサロンでそこそこ上手だなって思った美容師さんにお願いしたりしてました。その後、埼玉に引っ越してからは気に入った美容師さんに出会うこともなく・・・。
いろんな美容師さんにお世話になってみて、上手だったりセンスがよかったり人柄が良かったりする人はもちろんいるんだけど、Aさんが当たり前にしてくれていたこと――
丁寧に時間をかけてカウンセリングしてくれて、
いろんな写真を見ながら細かいとこまですり合わせして、
事前にどんなスタイルやカラーに仕上げるのか方針を説明してくれて、
お互い納得してから施術を始める
カット中は楽しく会話
――みたいなことを全部しっかりやってくれる美容師さんってそうそういるわけじゃないんだなと知りました。
ところで、10年ぐらいご無沙汰している間にも、Aさんが数年ぐらい前から原宿の別のサロンに移って美容師を続けていることを私は知っていました。けっこう有名な方なので、たしかSNSで見知ったんだったと思います。とはいえ知ったところで「よし、また行っちゃおうかな!」とはなかなか思いませんでした。今は埼玉に住んでますし。
でも最近、ちょっと白髪が増えてきたこととか、髪型に悩むことが増えてきたときに、ふと「Aさんに相談したいな・・・」と思ったんですよね。
Aさんが今いるお店はどんなお店なんだろう? と調べてみたら、ホットペッパービューティーに載っているのを発見。「ネットで指名予約できるじゃん! 予約しちゃえ!」といきおいにまかせて当日の朝に予約して表参道に行きました。当日予約とか迷惑だよなー、ごめんなさい。
最近の私はすっかり埼玉県民なので、クリスマス前シーズンの表参道などという華やかな場所にはちょっと気後れ。英語で会話してる声とかめっちゃ聞こえてくるし。
久しぶりにAさんに会えるのがすごく楽しみで、会ったら何から話そうかとかワクワクしつつ、「でも私のことなんてもうすっかり忘れられてるかもしれないよな」という気持ちもありました。
だって、私からするとAさんは人生で一番たくさんお世話になってる美容師さんだけど、Aさんからすれば私はたくさんいるお客の中の一人だし。Aさんのお客さんにはモデルさんとか著名な方もたくさんいらっしゃるわけで、そんな中、10年ぐらい前にフェードアウトした一般人客のことなんて忘れちゃっててもしょうがないよなーと。お世話になってた当時とは結婚して名字も変わっちゃってるし。
ドキドキしながらサロンを訪れて顔を見て最初に、
「おぼえてますか?」
と訊いたら、
「〇〇さん(私のファーストネーム)ですよね。今も恵比寿に住んでるんですか?」
って。
・・・やっぱプロだわこの人、頭の中の顧客データベースどうなってるんですか!?
とちょっと感動しました。
「いえ、もう恵比寿には住んでなくて、今日は埼玉から来ました」
って言ったら、ちょっと驚いたような顔でした。
お世辞かもしれないけど、
「全然変わらないですね」
と言ってくれて、私は即座に、
「いやいやいや、もう、いろいろ変わりましたよーー!」
と答えたけど、Aさんこそ全然変わってないなあと思いました。
あとで冷静に思い返してみると、お互いマスクしてて年齢が出やすいほうれい線あたり隠れてたから見えない部分は10年前の印象で補完してた説あるな? なんて思ったりしましたが。
10年ぶりだなんてまったく感じないぐらい、つい先月も会ったぐらいの感じでたくさんお話しました。
私が当時勤めてた会社のこととか、肌が弱くて頭皮が荒れやすかったこととか、よくピンクブラウン系の髪色にしてもらってたこととか、いろいろおぼえててくれててうれしかったです。
そしてやっぱり、お仕事に対する真摯な感じ、丁寧にヒアリングしたうえで提案してくれて、期待以上に素敵に仕上げてくれるところ、本当に変わっていなくて。
なんていうか、お互い地方から東京に出てきてがんばって仕事してて同志みたいな気持ちを以前から勝手に抱いてたりしたので(私は埼玉に引っ越したけど・・・)、ファッションの最先端で激戦区であるだろう原宿で、Aさんが美容師を続けていてくれること、私は本当にうれしいですって伝えました。10年ご無沙汰してたくせに我ながら調子いいよなとは思いますが。
人気店にお勤めだったころは、シャンプーやブローなんかはアシスタントさんがやってくれることが多かったんだけど、今の小さなサロンでは最初から最後まで全部Aさんがしてくれて、すごく贅沢な気分でした。
帰り際、LINE交換して「また来ます!」と伝えました。頻繁には通えないかもだけど、また絶対行こうと思ってます。
お互い20代から30代、40代って年齢を重ねて、これから先10年後も20年後も、やっぱりAさんは原宿でスタイリストをやっていてくれたらいいなって思うし、きっと続けててくれるんじゃないかなって思っています。
おばあちゃんになっても原宿の美容室に会いに行けたら素敵だなって思うんです。
きっとかわいくおしゃれな髪型にしてくれるだろうなって思うんですよね。